• HOME >
  • プロジェクト >
  • 広範囲エリアでエネルギーを融通し合う唯一無二のエネルギーマネジメントシステム「Synergy Link」 - Technology Geeks(株式会社ダイヘン)
プロジェクト

広範囲エリアでエネルギーを融通し合う唯一無二のエネルギーマネジメントシステム「Synergy Link」

再生可能エネルギー利用率の大幅な改善に国内で初めて成功!

政府より「2050年カーボンニュートラル宣言」が発表されてから、電力需給への考え方や課題が大きく変化してきました。最近よく耳にする太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー、そしてガソリンなどの化石燃料を使用しない電気自動車(EV)。今後、脱炭素社会を実現するためには、これらの機器やシステムを導入し、活用していくことが重要とされています。

それら再生可能エネルギーなどを活用し地域経済の活性化を目指しているプロジェクトが、福井県の『嶺南Eコースト計画』です。ダイヘンは、このプロジェクトに参加し、広範囲エリア(地域間)でエネルギーを融通し合う独自のエネルギーマネジメントシステムにより再生可能エネルギーの利用率を大幅に改善する国内初の結果を出すことに成功しました。

本稿では、このプロジェクトで活躍したダイヘンの技術や実証内容について、プロジェクトチームの開発者にインタビューをしましたので、ご紹介します。

Profile

北村 高嗣 Takashi Kitamura
株式会社ダイヘン EMS事業部
開発部(2015年入社)
入社以来、蓄電池システムとVPP(バーチャルパワープラント)を実現するクラウドシステム開発に従事。VPPを活用した実証事業や案件を主導し、現在は系統用蓄電池に関する機能開発に携わる。

VPP実証の実績が実を結んだ「嶺南Eコースト計画」への参加
再生可能エネルギー100%(RE100)を目指す!

ダイヘンは、電力系統の中に点在する太陽光発電や蓄電池、EVなど分散化された各機器を制御し、あたかも1つの発電所のように機能させることができる需給調整実証「バーチャルパワープラント(VPP)構築実証事業」※1を2016年から自社で実施しています。大阪と大分にある事業所内に、太陽光発電システム、大容量蓄電池、空調管理システム(BEMS)、EV、V2Xシステム※2を設置し、仮想的に拠点間電力融通を行う実証実験です。この実験で、VPPはエネルギーをより効率的に運用でき、十分な効果が得られるということが証明されました。

※1 参照 バーチャルパワープラント(VPP)とは?
※2 参照 災害発生に伴う停電時の電源確保の課題を解決!

 

福井県敦賀エリアは、国の施策においても、さまざまなエネルギーの中核的開発拠点として各種機器やシステムの整備が積極的に進められている地域です。最近では、北陸新幹線という交通網の拡大も加わり、さらにエネルギーを効率的に運用し、地域経済の活性化を目指す『嶺南Eコースト計画』が推進されています。その取り組みの中で、ダイヘンは基本戦略のひとつ「様々なエネルギーを活用した地域振興」というプロジェクトに参加することになりました。

この基本戦略は、太陽光発電やEV、蓄電池、水素といった新しいエネルギーを活用し、広範囲にわたる地域の中でスマートなエネルギーシステムを構築しようとするものです。この実証のなかで敦賀市では、庁舎の需要電力をすべて再生可能エネルギーで賄う「RE100」(リニューアブルエナジー100)の実現を目指しました。

通常、再生可能エネルギーの発電所では、天候などの自然状況によって発電量が左右されます。そのため、RE100を実現するには、ひとつのエネルギーリソースだけに頼るのではなく、さまざまなエネルギーリソースを組み合わせて運用することが必要となります。さらに、それらのリソースを制御して、エネルギーを融通し合い、各々の電力の過不足を調整しなければなりません。

そこで白羽の矢が立ったのが、VPPで高い精度のエネルギーマネジメント効果を証明したダイヘンだったのです。

天候に左右される不安定な太陽光発電をフォロー
「広範囲の地域間エネルギー融通システム」とは?

このプロジェクトでダイヘンに与えられた役割は、敦賀市庁舎のRE100を実現するための「広範囲の地域間エネルギー融通」を行うシステム構築。その概要について、北村氏に聞きました。

「今回、私たちが開発したのは、各エネルギーリソースの電気エネルギーを融通し合う“広範囲の地域間エネルギー融通システム”です。嶺南エリアという広範囲の地域に点在する様々なエネルギーリソースを活用することで敦賀市庁舎のRE100を目指そうと考えました。そのシステムとは、例えば今回主力エネルギーとしている太陽光発電所の発電電力が、気象条件(日照)の影響で足りなくなる場合に、EVや蓄電池、水素に貯め込んでいた電力などの他のリソースから放電し、足りない分を補っていきます。逆に、快晴の昼間などに太陽光発電所が十分に発電し電力が余る場合は、その余る分を各リソースに貯め込んでおくといった制御を可能にしたシステムです」

点在する複数のエネルギーリソースは、離れた地点に分散しており、充放電が遅いものや反対に速いものなどさまざま。それらが持つ固有の特性も含めて制御することが、このシステムに求められるものだったのです。

ダイヘン独自のエネルギーマネジメントシステム(EMS)
「Synergy Link(シナジーリンク)」

今回構築した地域間エネルギー融通システムの軸になったのは、ダイヘン独自の自律分散協調制御技術『Synergy Link(シナジーリンク)』です。この技術は、これまでEMSの中心的存在であった中央監視型(一括集中監視制御)とは一線を画す、全く新しい発想から生み出された制御方法です。

「シナジーリンクは、中央に位置する上位装置がまとめて監視や制御を行う一括集中型の方法とは異なり、各拠点、今回の実証でいうとEVや蓄電池、水素などのエネルギーリソースがそれぞれ、自律的に考えて出力調整が行える“小さな脳”を与えたようなシステムです。」と語る北村氏。

例えば、システム全体に対して『このくらいの電力が足りない』という全体の必要量を演算し、それぞれ“小さな脳”に一斉に送信します。すると、それらを受け取った“小さな脳”が自分の状態を見ながら自律的に出力を変化させることで、システム全体のエネルギーマネジメントを実現するのです。

この“小さな脳”の正体、実は「シナジーリンクモジュール」と言われるコンパクトな手のひらサイズの小さな機器なのです。EV充電器や蓄電池などのリソースそれぞれに搭載して運用します。この小さなシナジーリンクモジュールが、エネルギーを柔軟に制御する大きな役割を果たすカギとなります。今回の実証では、このシナジーリンクが大きな威力を発揮しました。

今回の嶺南Eコースト計画では特に、点在する多くのリソースをまとめて制御しなければならないことと、リソースの大部分を占めるEVによって、刻々と使用電力が増減することに対して柔軟に対応する必要がある点が課題でした。また、将来的な「スマートエリア形成」を見越して、更に制御しなければならないリソースが増えてくることも想定する必要があります。従来の一括集中型の制御方法では、制御対象のリソースが増えるごとに演算量や通信料も増加し、そのシステム改修にかかる費用や手間が甚大なものとなります。

その点、シナジーリンクは電力の過不足の状態を発信するだけで、各リソースが自律して計算してくれる仕組み。リソースが増えても、モジュールを取り付けるだけでシステムが構築できる簡単仕様。この柔軟な対応力が、この嶺南Eコースト計画においても大きなメリットとなったのです。

国内で初めて広範囲の地域間エネルギー融通に成功!
再生可能エネルギー利用率を94.4%と大幅改善

今回の実証は、気候(日照)が異なる2022年1月と3月に、それぞれ10日間、9時から18時の時間帯で実施しました。北陸地方の冬、という厳しい条件下ではありましたが、太陽光の発電量が少ないときはその他のリソースで補い合いました。また、応答速度が遅いが長時間の出力が維持できるもの、応答速度は速いが短時間しか出力できないものなど、それぞれのリソースの特性に合わせてシナジーリンクが適切に制御し、目標達成に貢献することができました。

結果、ほとんどの実証日に再生可能エネルギー利用率の大幅な改善が見られました。ある実証日には、なんと敦賀市庁舎の利用率が77.3%から94.4%に改善する結果が得られたのです。なお、広範囲エリアの複数拠点同士の地域間エネルギー融通に成功したのは国内初。これは、ダイヘン独自のシナジーリンクだからこそ成しえた結果です。

今回のプロジェクトでダイヘンが果たすべき役割がもうひとつあります。それは、「RE100を実現するために、どのようなエネルギーリソースが必要で、それをどう制御すべきなのか?」という検証です。この答えはいたってシンプルなものでした。つまり、「エネルギーリソースそのものが足りていない」ことだったのです。

その結果に対し北村氏は、「逆に言えば、ダイヘンの技術によって十二分に地域間エネルギーの融通が実現できた、という裏付けにもなりました」と自信を持って語ります。

今回ダイヘンが参加した嶺南Eコースト計画の実証結果で、VPPをはじめとする大規模システムであっても、シナジーリンクが非常に有効であることが証明されました。今後の展開としてダイヘンは、期待が高まる系統用蓄電池へのシナジーリンクの導入を検討しています。更に高速で複雑な制御が必要となることが予想されますが、さらに開発を強力に推進し、時代のニーズに応えていく考えだ。

#バーチャルパワープラント#VPP#嶺南Eコースト計画#再生可能エネルギー#系統用蓄電池#RE100#Synergy Link

関連記事

ランキング

Technology Geeksについて              

「Technology Geeks(テクノロジーギークス)」とは、株式会社ダイヘンが運営する幅広い技術テーマを紹介する情報発信サイトです。
学術として関わる人から、企業内で技術開発に取り組む人、施設や設備を管理する人まで、この分野に携わる人達にとって“分かりやすい・役に立つ・学べる” をモットーに情報をお届けします。

Geeks LV(ギークスレベル)について

各記事に付けられたGeeksLVは掲載情報の“専門度”を示すアイコンです。
レベルが高くなるにつれ、よりコアな情報が掲載されています。