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開発ストーリー

2023.04.21

再生可能エネルギーを活用したスマートエリア形成を目指して『嶺南Eコースト計画』広範囲の地域間エネルギー融通システム・プロジェクトストーリー

Geeks Lv2

北村 高嗣 Takashi Kitamura

株式会社ダイヘン EMS事業部
開発部 
(2015年入社)

福井県敦賀市を中心とする嶺南エリアでは、再生可能エネルギーなどのさまざまなエネルギーリソースを活用し、地域経済の活性化を目指す『嶺南Eコースト計画』を推進されています。その計画の基本戦略のひとつである「様々なエネルギーを活用した地域振興」において、ダイヘンは国内初の“広範囲の地域間エネルギー融通”に成功。再生可能エネルギー利用率94.4%を実現しました。この成功には、プロジェクトメンバーたちの2年間の挑戦が詰まっていました。

01RE100を目指すために集結したエンジニアたち
課題は“リーズナブルかつコンパクト”なシステムの構築

『嶺南Eコースト計画』の基本戦略「様々なエネルギーを活用した地域振興」の中で、ダイヘンは広範囲の地域間エネルギー融通システムの開発を担当しました。
舞台は2022年、福井県敦賀市。庁舎のRE100(リニューアブルエナジー100)を目指し、新卒1年目からベテランまでのダイヘンのエンジニアたちがプロジェクトチームとして集結しました。

「ダイヘンが今回のプロジェクトに参加できたのは、2016年から取り組んできた経済産業省(資源エネルギー庁)の補助事業である『VPP(バーチャルパワープラント)構築実証』※がきっかけでした。この実証事業において精度の高いエネルギーマネジメントの実績が認められ、『嶺南Eコースト計画』の一員となりました」と、これまでのVPP実証や今回のプロジェクトを主導してきたキーマン、北村氏。

※参照 バーチャルパワープラント(VPP)とは?

しかし、今回の計画では求められる条件が厳しく、また制御方法が異なるため、これまでのVPP実証で使用した制御システムをそのまま流用することはできませんでした。

「今回の『嶺南Eコースト計画』で求められた条件のひとつが、“リーズナブルかつコンパクト”なシステムであることでした。VPP実証の制御システムをそのまま使用すると、通信手段が高額になってしまうなど、コストアップにつながってしまいます。そのため、極力このシステムを活用しながら、広範囲の地域間エネルギー融通が可能なシステムが構築できるよう枠組みを変更して適用可能かを探ることに着目し、取り組みました」

今回、広範囲の地域間エネルギー融通システムの軸となったのは、ダイヘン独自の自律分散協調制御技術『Synergy Link(シナジーリンク)』。シナジーリンクは、高額な中央監視制御装置(拠点管理サーバなど)を使用せずに、機器やシステム同士が協調(Synergy)してつながり(Link)、エネルギーを最適な状態に導くことができるダイヘン独自の制御アルゴリズム。成功のカギは、この技術をどう活用するかにありました。

「シナジーリンクの “エネルギーリソースの特性に合わせて優先順位を設定できる”という利点を活かし、嶺南地域に点在するEVや蓄電池、水素などのリソースそれぞれの特性に合わせた設計を行いました。この設計によって、それぞれのリソースに与えられたシナジーリンクの“小さな脳”が機能します」

02トライ&エラーを繰り返し課題解決へ導く
さまざまなエネルギーリソース連携の壁に挑む!

再生可能エネルギー利用率の大幅な改善を実現した今回のプロジェクト。しかし、この結果にいたるまでに、プロジェクトメンバーの前にさまざまな難題が立ちはだかることになります。

 「今回のプロジェクトにおける最大の壁は、エリア内のエネルギーリソースを構成する他社製品の制御でした。その機器を実際に動かしてみると、想定していた通りの出力が得られず、開発メンバーで何度も試行錯誤を繰り返しました。何度もつなげて、『いかなるときでも正しく制御できているか』の洗い出しを行うなど、本当に苦労したことを覚えています」と北村氏。

しかし、この苦労が功を奏し、社外の製品を動かす知見を得ることに成功。今後の新たなプロジェクトにおいてもこの知見を活かせる。
また、今回のプロジェクトに参加しているのはダイヘンだけではありません。これらエネルギーリソースを提供する他の会社との連携も欠かせないものでした。

「他社が開発したエネルギーリソースのひとつ、水素システムは、当然ながらブラッシュアップを重ねて開発されています。そのため、私たちもそれに合わせてSynergy Link(シナジーリンク)をアップデートし、制御できるようにしなければなりません。そういった企業同士の連携も、このプロジェクトならではの苦労でしたね」

03天候に左右される不安定な太陽光発電をフォロー
さまざまなアイデア、戦略を駆使してプロジェクトを成功へ導く

実証の中でも、北陸地方という地域ならではの苦労がありました。実証期間は1月から3月。プロジェクトのメインエネルギーとしている太陽光発電にとって日照りが少なく、不利な時期と言えます。つまり、発電量が非常に少なくなる期間ということ。この難題をどうクリアしたのでしょうか。

「これまでの経験から、この時期に太陽光発電の発電量が少なくなることは想定していました。その課題解決の方法として、“運用での対策”を組み立てることにしました。例えば、蓄電池やEVの充電率を変更し、できるだけ多く充電できるよう“エネルギーリソースの方を”設定し直していきました。これにより太陽光発電の不足分をカバーしました」

発電量が天候に左右され、不安定な太陽光発電を用いた今回のプロジェクトにおいては、これまでの実績だけに頼らない“臨機応変な対応”が威力を発揮しました。ダイヘンは、技術力に加えて、「戦略」を駆使して成功へ導きました。

「実証において、各拠点の取り付け作業などは協力会社が担当しますが、機器のセットアップや試験などは当然私たちが行います。極寒の地での作業は本当に困難で、体力的にも厳しい業務でした。そんなとき、地域の皆様から声をかけていただくことがあり、心が温まったことを覚えています。私たちの参加するプロジェクトが、そこにいらっしゃる地域の方々の未来につながるんだ。やり遂げなければ!と考えるきっかけとなりました」

04Synergy Linkは新たなステージへ
「系統用蓄電池」への活用も視野に

今回の実証での成功は、いま注目が集まる「系統用蓄電池」市場へのシナジーリンクの展開にもつながる。今後について北村氏に聞いた。

「VPPの系統用蓄電池導入や他の広範囲のエネルギー融通を計画されているプロジェクトからもお声がけをいただいています。今回の嶺南Eコースト計画での経験はかなり活用できると思います。どのようなパターンであっても、点在する複数拠点のリソースを制御できれば、お客様のお役に立てること間違いなしです。勿論、実現できる自信もあります」

さらに、今後の挑戦する意気込み、抱負を語ってくれました。

「今後、より高速かつ難解な制御を要求されたり、さらにエネルギーリソースの数が増えてくることが考えられます。その課題を克服し、さらにお客様のお役に立てるように開発を推進していくこと、これがこれからの私たちの挑戦です。また、系統用蓄電池プロジェクトの制御要求にもしっかりと対応していきます」

今回の『嶺南Eコースト計画』で得られた再エネ利用率94.4%という結果は、このプロジェクトに参加した2年間だけの成果ではありません。エネルギーマネジメントの根幹をなす独自の制御技術「シナジーリンク」が開発され、それを活用した実績の積み重ね、言わばこれまでの“お客様のお役に立ちたい”というプロジェクトメンバーの熱意と努力が成功へと導いた、といっても過言ではありません。

実証の成功は未来への可能性を秘めた大きな一歩に

今回のプロジェクトメンバーはもちろん、ダイヘンの開発者たちが一丸となって取り組んできた結果が、「未来のスマートシティにつながる」。取材を通じてそう感じることができました。

Products of DAIHEN

V2Xシステム

本製品は急速充電ステーションと蓄電池設備を一体化することで、災害時などに長時間の安定した電力供給を可能とする非常用電源システムです。

Synergy Link

「Synergy Link」は高性能な中央監視制御装置(拠点管理サーバ等)を使用せずに、機器やシステム同士が協調(Synergy)して繋がり(Link)、最適な状態に導くことができる 新しい制御技術です。

DISOLA POWER STORAGE PACK

自家消費向け太陽光発電 蓄電池搭載 変電設備パッケージ。電気料金を削減したいという悩みを解決します。

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